平成23年度は、これまでの史料調査を継続するとともに、個別実践における野外教育の思想・理論・活動について、地域差に留意しながら比較史的・総合的な検討を進めた。その経過と結果は以下のようになる。 まず、これまでの調査において、大阪市などの都市化が進んだ地域では、野外教育の内容に、地域的特色を反映した活動があまり多くは含まれていない事が分かった。そこで、本年度は対象を拡大し、函館市や千葉市でも調査を実施した。その結果、函館市の事例では、市内の史跡見学や地元の食材を使用した給食が実施されていたことが明らかになった。また、千葉市の事例でも郷土史的な内容が取り入れられていることが分かった。一方で、両市の事例においても、「身体虚弱児童」を対象とする欧米型の教育実践の影響を強く受け、他の都市圏と同様のプログラム構成となっていることが明らかとなった。これまでの報告でも指摘してきたが、大正期の野外活動は欧米の野外教育をモデルに企図され、全国的に定型化されたプログラムにより実施されていた。両市の事例やこれまでの調査結果からも、欧米型の野外教育の思想・理念が、大正期の野外教育実践に強い影響を与えていたことが指摘できる。 しかし、一方で活動内容においては、史跡見学や地理の実地調査、民俗行事の見学など、地域的要因の強い事例も多数確認することができた。このため、同一の思想・理念のもと実践された各地の野外教育であったが、活動においてはそれぞれの地域性を活かし、特色ある実践が展開されていた実状が明確になった。これらの特色ある活動を一定程度発掘したことは、本研究の大きな意義であると考える。今後は、これらの地域性を活かした活動が、昭和初期以降のさらなる野外教育の発展のなかで、どのような変容をみせるのか、時代的な変化に注目して検討する必要があるといえる。
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