胃などの消化管器で生じる運動機能低下や知覚異常及び知覚閾値低下は内臓知覚として求心性に自律神経系を介して中枢へと伝搬される。迷走神経束の8割から9割は求心性線維であり、胃などの消化管活動は脳から胃、胃から脳へと相互的調節を受けている。そのため、胃などの消化管器は身体的・心理的ストレスの影響を受けやすい臓器でもある。これまでの報告から運動は消化管ホルモンに対する感受性や胃活動を高めることが示されており、運動が内臓知覚閾値を変動させ求心性入力及び中枢を介した消化管機能の調整も想定される。本研究は、ラットを用い、胃内にバルーンを用いた胃拡張刺激から一過性の運動が内臓知覚閾値に及ぼす影響を検討した。6週令のWistar系雄ラットを搬入後、予備飼育を行いトレッドミルによる走行学習後に実験を行った。胃拡張刺激は、20m/minで30分間の走行運動後及び運動無しのコントロール条件後に胃瘻管からバルーンを胃内に挿入しAnimal barostat装置を用いて0.2ml/sec.の速度でバルーンの拡張を行い、その反応を評価した。また、運動開始及び運動終了時点でラット尾静脈より採血を行い、血中乳酸値、血糖値を測定した。運動条件では、血中乳酸値は安静時0.94±0.08mM、運動終了後は1.71±0.22mMであり安静時に比較し運動後に有意な増大を示した。血糖値は安静時84.0±7.66mg/dl、運動終了後は84.2±5.60mg/dlであり有意な変化は認められなかった。胃拡張刺激による反応の差異は運動条件、コントロール条件間に差異は見られなかった。中強度運動後では、胃そのものの拡張による知覚変動は生じないこと推察された。
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