本年度の研究計画に基づき、学会口頭発表1編、原著論文1編の成果を得た。その成果の概要は以下の通りである。19世紀末以降、組織化されたホッケーのゲームはイングランドの様々な地域に普及を見たが、統括組織により非難されていた男女混合ホッケーや、リーグ戦を実施するクラブが全国的に存在し、これらのクラブは20世紀初頭まで増加傾向にあったと近年の研究が指摘しているように、ゲームの普及過程の解明にはこれまで看過されてきたクラブの活動基盤への着目が不可欠である。以上から、本研究では企業内クラブに着目した。多様な活動が展開されていたという事実があるにもかかわらず、従来の研究はこれらのクラブに十分な関心を寄せていない。よって本研究は、イングランド北部の工場、Rowntree Cocoa Works内に設立されたクラブをその事例とし、1)クラブ設立の背景、2)対戦の実態、3)近隣へのゲーム普及に及ぼした影響の3点を考察することを目的とした。主要史料は、Cocoa Worksの社内報であるThe C.W.M.、地方新聞、ホッケー年鑑であった。結果は以下のようにまとめられる。このクラブは、Rowntree Cocoa Worksの従業員にホッケーのゲームの経験の場を提供し、そのゲームに喜びを見出した人々をメンバーとして巻き込みながら、ホッケーの地域的な普及の一翼を、統括組織の管轄外で担っていた。ホッケーの普及過程には、統括組織主催の様々なレベルの試合の拡充や、その加盟クラブの活動の展開のみでは把握することができない重層性が存在したことを、Rowntree Cocoa Worksのホッケークラブの活動実態は裏書きしている。
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