20世紀初頭を迎えた英国では、企業による従業員へのスポーツの提供が大規模に行われるようになる。経営者によって主張されたスポーツの便益には様々なものがあったが、従業員たちは、こうしたまなざしを受け入れつつ、社内スポーツクラブの活動を満喫していた。企業の支援を受けた活発な活動の範囲は社外にも及び、当該地域のスポーツの普及に重要な役割を果たすこともあった。第1次大戦開戦以前のホッケーについて見ても、このような企業内ホッケークラブの活動の活発化を確認することができる。にもかかわらず、企業内ホッケークラブの活動実態の解明および役割の検討はこれまで十分行われてきたとはいえない。よって本年度の研究では、イングランド東部のノリッジで操業していたコールマン社のマスタード製造工場、キャロウ・ワークスに設立されたホッケークラブを事例として、その活動の背景、活動内容を解明し、このクラブがゲームの地域的な普及にいかなる役割を果たしたと評価できるのかを検討した。成果は下記3点に集約できる。1)キャロウ・ワークスは、教育・福祉プログラムの一環として、スポーツ施設、用具を従業員に提供した。男女ホッケークラブの活動もその中に位置づけられていた。2)女性の活動は停滞したが、男性のクラブは工場内に留まらず、近隣クラブと対外試合を実施していた。3)男性のクラブは州アソシエーションの設立メンバーとなり、対外試合を通して統括組織のゲームの地域的普及の一翼を担った。昨年度検討を行ったラウントリー・ココア・ワークスの事例と同様に、本年度の成果は、企業内クラブがホッケーのゲームの地域的普及に大きな役割を果たした事例として重要である。ホッケーのみならず、20世紀初頭のスポーツの普及過程における企業クラブの役割についてはより多くの研究が必要である。これらの研究成果は、スポーツの普及過程のより多様で複雑な実態を示すことになるだろう。
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