サッカーなどのスポーツでは、周りが見えていないという状況に陥ることがある。この言葉は、運動中には視野の周辺部での知覚能力が低下することにより、球技などのパフォーマンスの低下がもたらされる可能性を示唆している。平成22年度は、先行研究でみられた高強度での運動中に起こる知覚能力の低下が、視覚刺激の呈示される位置が視野の周辺部になればなるほど大きくなるのかについて検討した。実験参加者は12名であった。実験の初日に自転車エルゴメーターを用いて漸増負荷運動を行い、最高酸素摂取量(peak VO_2)を決定した。実験の2日目と3日目には安静時と運動中に中心視野と周辺視野からランダムに呈示される視覚刺激に対する反応時間を測定した。運動負荷はpeak VO_2の40%と75%とし、運動時間はそれぞれの運動負荷で10分間であった。視覚刺激の呈示には発光ダイオードを用い、視覚刺激は左右視野の2度、10度、30度、50度に呈示した。反応動作は自転車エルゴメーターのハンドル部に取り付けたボタンを用いて反応した。反応時間測定に加えて、呼気ガス測定装置により酸素摂取量、二酸化炭素排出量、換気量、呼気終末酸素分圧、呼気終末二酸化炭素分圧を測定した。さらに、心電図を連続的に計測し心拍数を求めた。反応時間測定中には右手の前腕部から筋電図を測定し、視覚刺激の呈示から筋活動の開始までの時間を計測した。また、眼電図を計測し、反応時間測定中に眼球運動や瞬目がみられた試行は取り除いた。実験の結果、高強度での運動中に周辺視野での知覚能力は低下したが、視覚刺激の呈示位置によって運動の影響に差はみられなかった。このことから高強度の運動中には周辺視野に注意を向ける能力が低下することが示唆された。
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