本年度(平成21年度)の研究目的は、主に野球競技者の知覚スキルについて実験的検討を行うとともに、熟達化についてdeliberate practiceに関する調査を行うことにより、熟練したスキルを支えるメカニズムを検証することであった。主な実績は以下の通りである。 「課題1:遮蔽技術を用いた視覚刺激に対する打者の知覚スキル(シミュレーション実験)」 まず、生態学的妥当性の高いシミュレーション環境を構築するため、実際の野球の打撃状況に極めて近い実験設備について考察した。視覚刺激に用いる映像については、投手による投球動作を高解像度ハイビジョンカメラで撮影し、打者の「速度感」が現実的だと考えられるシャッタースピード、フレームレート設定について検討した。また、遮蔽技術については、主に時間遮蔽(temporal occlusion)手法を用いて特定の時間フェーズで刺激映像を遮蔽し、先行研究を考慮した上で、遮蔽するための最適な時間位置について検証した。その結果、従来よりも熟練度による差異が極めて少ない実験データが得られたが、詳細な原因についてはさらなる検討が必要だと考えられる。 「課題3:スキルの熟練度と練習の微細構造の関係(deliberate practice理論の検証)」 従来の研究方法を応用し、野球競技者を始めとする大学生109名を対象に質問紙形式によるアンケート調査を実施し、deliberate practiceに関するデータを収集した。その結果、野球競技者は一般大学に比べると、小学生から高校生にかけて「コーチによる指導」「実践練習(試合)」に多くの時間を費やしていることが明らかとなった。 今後は課題1の知覚スキルと、課題3での練習履歴との関連について検討を進める予定である。
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