本研究の目的は、(1)呼吸循環器系応答の大脳皮質への影響、(2)脳内の各運動関連領域の血行調節、(3)運動強度と脊髄やそれ以上のレベルでの伝達調整との関係、(4)運動強度と筋機能の変更との関係を検討し、安静時から疲労困憊までにそれらの要因がどのように変化し、どのような関係性が認められるのかを明らかにすることである。本年度は、(1)呼吸循環器系の大脳皮質への影響を知るため、被験者(成人男性)8名に対して漸増負荷運動による疲労困憊時の酸素摂取量と大脳皮質の血行(酸素化ヘモグロビン量、脱酸素ヘモグロビン量および総ヘモグロビン量)動態を同時測定した。酸素摂取量は呼気ガス分析器、大脳皮質の血行動態は近赤外線分光法装置(Near Infrared Spectroscopy; NIRS)で前頭葉の血行を時系列的に測定した。その結果、安静時から疲労困憊まで酸素摂取量および大脳皮質の血液量の2つ指標はともに増大した。疲労困憊に達すると、両指標ともに低下した。この2つの指標は、安静時から疲労困憊までの間、よく似た変化を示した。運動中は動脈中の二酸化炭素濃度(Paco_2)が上昇することが知られている。Paco_2は血管収縮に関与する-要因である。運動中のPaco_2の上昇は大脳皮質の血液調節にも関与している可能性が示唆されが、疲労困憊時に大脳皮質の血行量が増加している。つまり、血管収縮によって血行が変更されることは考えにくい。また運動中の動脈中の酸素濃度Pao_2には著しい低下はないことが明らかになっている。この事から疲労困憊時の大脳皮質の血行の低下要因は呼吸循環器応答以外に他の要因が大きく関与している可能性が高まった。
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