研究概要 |
本研究は,メンタルトレーニング(MT)実施中のアスリートの心理的変化を量的(心理的競技能力診断検査[DIPCA]の尺度得点)・質的(アスリートの発話)の両側面から検討することを目的とした実践研究である.平成23年度は平成22年度に検討した事例を成果としてまとめ,第13回ヨーロッパスポーツ心理学会にて報告した. また,引き続き心理支援を希望するアスリートへの介入,複数名の心理専門家による事例の検討を随時行った.本年度検討した事例(男性アスリートB)を以下に提示する. Bは初回面談時に「イメージトレーニングを行おうとした際に場面・場面は鮮明にイメージすることはできるが,流れとしてイメージをすることができない」とイメージの制御性の困難(つながりの悪さ)を訴え,来談した.来談当初の語りからは,イメージでの課題と同期するように,ある特定の動きや感覚へ注意が固着してしまい,動作全体の改善につながらず,むしろ認知・行動レベルでの混乱や自信の低下に繋がっている様子を語っていた.介入を行う中でBは,自身の過剰な注意の偏りに気づいていき,少しずつ自身の注意のあり様を変容させる取り組みを行っていった.そして,状況に応じて柔軟に対応できるようになり,自身の長所として状況判断を挙げるまでになった. 先行研究で指摘されているように本研究課題で対象としたいくつかの事例においても,サポート前後で尺度得点の低下がみられるている.心理検査の結果をツールとして,検査結果の意味づけや各心理的スキルに対する重要度の評価にも変容がみられた.アスリートにとって心理専門家との関わりは,単に心理的スキルの向上だけでなく,自己評価に関連する判断基準や心理的スキルに対する価値観などの心理的側面にも影響を与えていることが明らかとなった.
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