時差飛行のように環境周期が急速に変化すると環境周期と生体リズム間で脱同調が生じ、いわゆる時差ボケ症状を訴える.本研究は、時計遺伝子Perirod1(Per1)のプロモーター支配下に生物発光遺伝子を導入したPer1-lucマウスを用いた組織培養実験および行動リズム実験により、明暗周期位相シフト後の運動が生体リズムの再同調を促進するメカニズムを解明することを目的として行われた.21年度には、明暗周期を8時間前進(東方飛行に相当)させた際に、マウスに回転輪運動を負荷すると行動および骨格筋等の運動に関わる末梢臓器のリズム再同調が促進されるが、運動のタイミングに依存することを明らかにした.しかし、視交叉上核(SCN)のリズムは運動による再同調促進効果は認められず、行動リズムとの乖離がみられた.最近の研究から、日長を変化させるとSCNの領域特異的に遺伝子発現リズムの位相が変化し、視交叉上核内のダイナミズムが行動リズムの制御に関わることが報告されている.そこで、22年度は、SCN内の領域特異的な解析が、回転輪運動による行動リズム再同調促進メカニズムを解明する足がかりになると考え、回転輪運動を負荷しない条件下で、SCNのPer1リズムと行動リズムを明暗周期位相シフト前後で経時的に測定する実験を行った.SCNは、冠状断方向に吻側、中間部、尾側の3領域にわけ、各領域のPer1リズムを測定した.その結果、明暗周期を位相シフトした数日間はSCNの吻側と中間部のPer1リズムは2縫性となり、尾側では単峰性のリズムがみられSCNの領域間ではPer1リズムの位相差が生じていた.行動リズムの解析では、位相シフトした明暗周期に対する位相反応は行動終了位相が開始位相に比べて有意な位相前進がみられ2つの位相が異なる反応性を示した.即ち、明暗周期の位相シフトによりSCNの領域間でPer1発現リズムに位相差が生じることから、各領域のリズムが行動リズムの開始、終了位相間にみられる位相反応の差を説明する手がかりとなることが示唆される.
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