前年度の研究により、14日間の後肢懸垂が幼齢ラットの記憶学習能力に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。後肢懸垂ラットの海馬には、通常飼育ラットと比較して発現量には変化がないもののpIが大きく変化するタンパク質が2種類あることを見出した。本年度は、同様にpIのみが変化するタンパク質をさらに1種類見出した。 続いて、後肢懸垂により引き起こされるタンパク質のpI変化は一時的なものであるのか可逆的なものであるのかについて調査を行った。すなわち、後肢懸垂前ラット(Pre群)、後肢懸垂14日後ラットと同週齢の通常飼育ラット(Day 14群)、後肢懸垂14日後に通常飼育を14日間行ったラットと同週齢の通常飼育ラット(Day 28群)の5群を準備し、上記3種類のタンパク質について2次元ウェスタンブロッティングを行い、それらのpI変化の比較を行った。その結果、(1)加齢に伴うpI変化が後肢懸垂中には一時的に止まるが、後肢懸垂解除後には再開すると考えられるタンパク質、(2)加齢に伴うpI変化が後肢懸垂によって抑制され、後肢懸垂解除後ももはや変化しないタンパク質、(3)加齢に伴うpI変化とは異なる変化が後肢懸垂によって引き起こされ、後肢懸垂解除後も全く異なるpI変化を続けるタンパク質の3パターンがあることが分かった。これらの結果から、幼少期における後肢懸垂は、海馬におけるタンパク質の修飾変化、すなわちタンパク質の機能変化を恒久的に引き起こす可能性が示唆された。
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