研究概要 |
運動は血糖および血圧の降下作用や脳・心臓血管疾患の予防のみならず、ある種の癌の抑制作用や免疫力増進効果など、運動による脂肪減少に直接に起因するとは考え難い多様な効果も認められている。本研究ではこの様な効果が、筋に由来する因子が関係していると仮定し、「筋収縮が引き金となって骨格筋細胞から種々のミオカインが分泌される」という仮説を検証した。H21年度は、血液由来成分混入の可能性を排除するために培養細胞(C2C12)を5日間分化させた後、両極に炭素電極を備えた電極から電気刺激(50V,3ms,1Hz)を与えることによって、培養細胞株を収縮させるモデルを構築した。 H22年度は、この系をもちいて、収縮時に骨格筋から分泌されるミオカインをプロテオミクス解析により探索・同定した。その結果、収縮させなかった細胞の培養上清から得られた蛋白質は合計で342個、収縮させた群から得られた蛋白質は428個、重複するものを考慮すると全部で471種類の蛋白質が検出された。その蛋白質リストには、細胞骨格など、回収時における細胞破片の混入などによる蛋白質も含まれていた。そこで得られたリストの中から、分泌蛋白質を選別するために、in silico分析を行った。その結果、非収縮群では165個、収縮群では204個の分泌蛋白質の候補リストを得ることができた。この蛋白質リストの中からmacropharge migration inhibitory factor (MIF)について検討した。骨格筋での発現はPCR法ならびにウェスタンブロッティングにより確認した。さらに、MIFが筋収縮によって分泌されるかについて、C2C12細胞を6時間収縮させた群、させていない群の培養上清を濃縮し、ウェスタンブロッティングすることで検討した。その結果、収縮群で有意なMIFの上昇が確認され、収縮によりMIFが骨格筋から分泌される可能性があることが明らかとなった。
|