暑熱環境下において深部体温が上昇するような状況では、常温時に比べて、体温調節反応のひとつとして多大な皮膚への血流配分が必要となる一方、脳循環調節についてはより負担を要する。これまでの研究により、暑熱環境下でも特に朝においては、起立耐性が著しく悪化し、同時に脳循環の調節能力も低下することを報告してきた。しかしながら、その機序や予防策ついては、未だ十分に明らかにできていない。そこで本年度の研究では、実際に暑熱負荷により深部体温が上昇した状態において、さらに一過性の血圧低下が引き起こされた際の、主に脳循環自動調節能における日内変動特性を明らかにすることを目的とした。 実験では朝と夕方の2つの異なる時間帯において、全身温熱刺激を負荷した後、両大腿部に巻いたカフを収縮期血圧より30~40mmHg高く加圧し、3分後に急速解除することで一過性の血圧低下を生じさせた。その結果、大腿カフの急速解除により生じた一過性の血圧低下に対する脳血流速度の回復率は、夕方が朝に比べて有意に上昇した。また、血圧低下により脳血流速度が最も低下する位相についも、夕方のほうが、朝に比べて早い傾向を示した。すなわち、同一刺激に対しても夕方においてのみ、脳循環自動調節能力が増強されたことを意味する。 これらのことから、同一の暑熱環境負荷でも、夕方は朝に比べて脳循環調節の反応性が良く、そのことが朝にみられる起立耐性の著しい低下を防いでいる可能性が示唆された。
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