暑熱環境下において深部体温が上昇するような状況では、循環調節への負担が増大するとともに、起立耐性の低下が認められる。これまでの研究より、特に朝においては、その傾向が顕著であることを明らかにしている。また、同一暑熱環境下での一過性の血圧低下に対しても、夕方は朝に比べて脳循環調節の反応性が良く、そのことが朝にみられるような起立耐性の顕著な低下を防いでいると考えられる。そこで、朝の時間帯における起立耐性の低下への具体的な予防策を検討するうえで、全身冷却(クーリング)あるいは運動(ウォームアップ)に対する循環系変化の日内変動特性を明らかにすることを目的とした。 冷却の実験として、朝と夕方の2つの異なる時間帯において、全身冷却刺激を負荷した後、両大腿部に巻いたカブを急速解除することで、一過性の血圧低下を生じさせた。その結果、全身の冷却刺激により、朝および夕方の両時間帯ともに血圧は上昇し、脳血流速度も増加の傾向にあった。これらは、起立耐性を維持するうで効果的な反応である。一方、全身冷却を伴う一過性の血圧低下に対する脳血流速度の回復率は、朝のみ有意に上昇した。このことは血圧や脳血流速度が上昇傾向にあるなかで、より血流量を増加させる可能性があり、必ずしも生体にとって良好な反応とは考えられない。 これらのことから、時間帯にかかわらず、全身冷却(クーリング)は起立耐性低下を予防する一つの手段と考えられるが、朝における過度の冷却は脳循環への負担をより増大させる可能性も示唆された。また運動(ウォームアップ)の効果についてもある程度の可能性がみられたが、より詳細なデータを得るため、次年度の研究と組み合わせて引き続き検討していく。
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