研究概要 |
本年度の研究では,足関節筋の収縮・弛緩が同側の手関節筋の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を検討した.被験者は,合図の音に合わせて足背屈筋を素早く収縮させる,弛緩させる,あるいは何もせず安静を保つ,という3種類のタスクを行った.被験者は「用意」という験者の声の合図で用意の姿勢(筋収縮させるタスクおよび安静を保つタスクでは安静にした姿勢,筋弛緩させるタスクでは軽く抵抗を感じる程度に足背屈した姿勢)をとり,その後,メトロノーム音が2Hzで鳴り始め,5回目の音に合わせてタスク動作を行うよう指示された.また,筋弛緩のタスクでは能動的な足底屈力を発揮しないよう指示された.実験において,まず,各被験者はタスク動作の練習を数回行った.その後,筋収縮タスクと筋弛緩タスクを5回ずつ行い,5回目のメトロノーム音と筋収縮開始または筋弛緩終了との時間差を表面筋電図を基に計測し,平均の時間差を算出した.この時間差を基準に,筋収縮開始または筋弛緩終了となる時刻を0とし,0ms,±50ms,±100msの5種の時刻に手関節筋を支配する大脳皮質一次運動野に経頭蓋磁気刺激を行い,手関節筋の橈側手根屈筋と橈側手根伸筋から運動誘発電位を記録した.その結果,いずれの筋の運動誘発電位振幅値においても,刺激タイミングの有意な影響は認められなかった.同側手足の協調動作におけるパフォーマンス(同時に手の筋収縮と足の筋弛緩を協調させて行ったとき,それぞれを単独で行った時と比較し,手の筋収縮,足の筋弛緩ともに動作が阻害される)から,足関節筋の収縮や弛緩は手関節筋の皮質脊髄路興奮性に影響を及ぼすことを仮説としたが,その仮説は棄却された.よって,同側手足筋の同時収縮・弛緩にみられる相互作用には,ある肢の筋活動が別の肢の筋の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響によるものでは無い可能性が示唆された.
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