昨年度の研究において、レジスタンス運動に伴う成長ホルモン(同化ホルモン)とコルチゾール(異化ホルモン)の分泌増大には、筋代謝物の蓄積に代表される「末梢性の要因」の影響が大きいことを明らかにした。一方、成長ホルモンやコルチゾールは運動、睡眠、食事などに影響され、1日の中で分泌量の変動が大きい「ストレスホルモン」として知られている。したがって、日内分泌変動の小さいホルモンの分泌応答に対する「中枢性の要因」と「末梢性の要因」の関与も検討することが必要である。そこで、健康な男性10名を対象に、全身への9種目のレジスタンス運動を負荷し、各種ホルモンの分泌動態や最大筋力の変化を検討した。その結果、レジスタンス運動に伴い血中乳酸濃度は顕著に増加したが、その増加の程度に個人差がみられた。また、運動終了後8時間まで経時的に採血し、各種ホルモンの血中濃度の変化を検討したところ、運動による血中乳酸濃度の変化とフリーテストステロンおよびインスリン様成長因子1(IGF-1)濃度の変化の間に、有意な相関関係はみられなかった。フリーテストステロンやIGF-1は成長ホルモンと並ぶ代表的な同化ホルモンであるが、レジスタンス運動や食事に対する分泌変動は比較的小さい。また、レジスタンス運動に伴う血中乳酸濃度の変化は筋代謝物の蓄積の程度を反映し、ホルモンの分泌増大を惹起する「末梢性の要因」として位置づけられる。したがって本研究の結果は、(1)レジスタンス運動後の同化・異化ホルモンの分泌増大に対する中枢性(セントラルコマンド)と末梢性(筋代謝物の蓄積)の要因の貢献度はホルモンの種類によって異なること、(2)テストステロンやIGF-1の分泌増大に対する末梢性の要因の関与は小さく、中枢性の要因の関与が大きいことを示唆するものである。
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