研究概要 |
心身ともに快ストレスをもたらす運動が高齢者の「健康寿命の延伸」と「生活の質(QoL)の向上」に寄与するものと考えられる.また,加齢に伴う脳機能低下進度を緩やかにすることも「健康寿命の延伸とQoLの獲得」に必要不可欠である.本年度は,高齢者10名(69.20±3.4歳)と若年健康成人10名(25.30±9.0歳)を対象にストレスを低減させる運動の内容について検討した.運動前後のストレス評価については,生理的・客観的指標として唾液アミラーゼ活性を測定し(唾液アミラーゼモニター,ニプロ),心理的・主観的指標については感情プロフィール検査(POMS短縮版)を実施した. 交感神経活動レベルを反映するアミラーゼ活性については,高齢者が若年健康成人よりも有意に高い値を示した(p<0.05)が,運動前後の比較では差は得られなかった.また,運動後に「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「疲労」「混乱」といったネガティブな感情のスコアが低下し,「活気」といったポジティブなスコアが上昇する傾向を示し,若年健康成人で顕著であった.さらに,運動後における「緊張-不安」(r=0.667,p<0.05),「抑うつ-落ち込み」(r=0.789,p<0.01),「疲労」(r=0.827,p<0.01)の3項目とアミラーゼ活性との間に有意な正の相関関係が高齢者においてのみ認められた.したがって,ウォーキングなどの適度な運動は心理的・主観的なストレスを低減させる効果があること,唾液アミラーゼ活性は高齢者の運動による疲労やストレスの評価に有用であることが示唆された.本研究は,高齢者を対象にストレスの低減に着目した初めての運動プログラム開発研究であり,得られる成果は高齢者の「健康寿命の延伸とQoLの獲得」に貢献するものである.
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