研究概要 |
適度な運動は高齢者の健康と身体諸機能を保持増進させるだけでなく,ストレスの解消にも効果があることは明らかである.しかし,運動の強度が強すぎたり,楽しくない運動などはかえって心身のストレスを増大させてしまい健康を害することにもなり得る.そこで本年度は,ストレスを低減させる運動の内容について明らかにし,ストレスを低減させる運動が脳機能を活性化させるかどうかについて検討した. 被験者は健康な高齢者16名(平均年齢69.25±3.6歳)であり,研究の趣旨と目的を文書と口頭で説明し,参加の同意が得られた者から同意書を得た.運動の内容はウォーキングとし,被験者は自分の体力と体調に合わせて無理のない自分のペースで歩くよう指示された.運動前後におけるストレスの評価については,生理的・客観的指標として唾液アミラーゼを非侵襲的に測定した.心理的・主観的指標については感情プロフィール検査(POMS)を実施した.運動前後の脳機能評価については前頭葉機能検査のウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)を実施した. 運動後のアミラーゼ活性が運動前よりも低下した被験者では,WCSTの「総誤反応数」(p<0.01)と「保続性の誤反応数(perseverative errors)」(p<0.05)が運動前よりも有意に減少し,主観的な感情の「混乱」のスコアも有意な低下を示した(p<0.05).また,運動後においてアミラーゼ活性とWCSTの総誤反応数の間に正の相関が認められ(r=0.689,p<0.01),運動によりアミラーゼ活性が高まるにつれて総誤反応数が増加する傾向を示した.したがって,ストレスを低減させる運動は高齢者の脳機能を活性化させるが,ストレスを増大させる運動は脳機能を低下させることが示唆された.
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