本研究は、成長期野球選手の投球障害予防に必要な、投球動作における留意事項の抽出を目的とした。投球動作の指導に必要となる関節運動の正確な情報を得るために、特に投球の加速運動に関与する主な関節運動である股関節内転、体幹回旋、肩関節内旋、肘関節伸展の角度変化量や運動速度とボールに与える力の相関を分析した。対象は中学野球選手15名(年齢13.7歳)とした。またコントロール群を大学野球選手15名(年齢22.1歳)とした。投球の後期コッキング期のステップ脚の股関節内転角度変化量と角速度、体幹左回旋角度変化量と角速度および加速期の肩内旋角度変化量と角速度、肘伸展角度変化量と角速度を算出した。またボールに与える力を示す代替値として投球側手の反投球方向への加速度(手加速度:負の値ほどボールに与える力は大きい)を算出した。手加速度と各関節のパラメータとの相関を分析し、両群間で比較した。中学生で手加速度と有意な相関が認められたものは体幹左回旋角度変化量(r=-0.59)、肘伸展角度変化量(r=-0.75)、肩速度(r=-0.76)、肘速度(r=-0.61)であった。大学生で、股関節速度(r=-0.51)、肘速度(r=-0.61)であった。成長期野球選手は上肢運動に依存した投球動作を呈しやすいとされている。本研究でも中学生が大学生と比較して、上肢関節に依存している傾向が示唆された。また、股関節運動ではなく体幹回旋運動が強調される傾向にあり、腰部への悪影響も危惧される。これらのことから中学生への投球動作指導では、大学生のような股関節運動の活用を意識する必要があると考える。
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