本研究の目的はPGC-1αの遺伝子多型や、関連する転写因子の遺伝子多型が骨格筋のミトコンドリアや持久力を決定する因子となるかを調査することである。本年度は、PGC-1αの発現を刺激する因子であり、また発現を増加させたマウスは持久力が著しく増加することが報告されたPPARδの遺伝子多型について、ヒトを対象に持久力との関連を調査した。またこれらの遺伝子多型と骨格筋ミトコンドリア量の関連を調査した。 297名の高齢者を対象に最大下多段階漸増ステップ運動を実施して、有酸素性作業能力の指標である乳酸閾値(LT)強度を測定した。PPARδ遺伝子のT294C多型を解析した結果、T/T:185名、T/C:98名、C/C:14名であった。各群の年齢、身長、体重に差は認めなかった。有酸素性作業能力はT/T4.1±1.0METs、T/C:4.3±0.9METs、C/C:3.6±0.9METsであり、T/CはC/Cに比べて有意に高値であった。またT/T+T/CはC/Cに比べて有意に有酸素性作業能力が高いという結果を得た。 骨格筋の採取ができた対象者25名を対象に、ミトコンドリア量(mtDNA)とPGC-1α遺伝子Gly482Ser多型並びに、PPARδ遺伝子T294C多型の関連を調査したが、いずれの多型でも有意な差を認めなかった(Gly/Gly:1264±530、Gly/Ser:1150±324、Ser/Ser:1262±509とT/T:1209±448、T/C:1241±423、C/Cは対象者なし)。またTotal genotype score(Gly/Gly:2、Gly/Ser:1、Ser/Ser:0とT/T:2、T/C:1)とmtDNAに有意な相関関係は認められなかった。 これらの結果から、これまでに報告したPGC-1α遺伝子Gly482Ser多型に加えて、PPARδ遺伝子T294C多型も持久力に影響を及ぼす因子である可能性を示したが、このメカニズムについては今後の更なる研究が必要となる。
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