研究概要 |
本研究の目的は,学校における転落事故の発生実態(発生件数や発生機序)を把握し,その防止策を検討することである。これまでに発生した事故件数の集計・整理と,事故事例に関する聞き取り調査,ならびに各自治体の校舎の構造に関する聞き取り・実地調査をもとにして,転落事故の全容を具体的かつ実証的に明らかにし,その「発生件数の多さ」と「防止可能性の高さ」に言及する。本研究の作業は,転落事故を含めた学校安全の取り組み全体を,不安ベースではなく実証研究ベースで進めるべきことを訴えるものであり,これは合理的・効率的な安全達成に向けての一つの提言となる。 これまで学校安全の分野では,転落事故は等閑視され,まして客観的なデータにもとついて,過去からの転落事故の発生件数を数量化したり,効率的な防止策の提案を試みるという研究はまったくおこなわれてこなかった。近年,社会問題・犯罪研究の分野では,不安ベースの「事件衝動型」対策に抗すべく,「エビデンス・ベイスト・ポリシー」(科学的根拠にもとついた対策)への転換が提唱されている。本研究もまた,転落事故の発生実態を数量的に把握し,限りある資源・財源の効率的な運用にもとづく防止策のあり方を模索していく。 転落事故に関して,その「発生実態」の把握と「防止策」の検討のために,今年度はまず,転落事故(死亡,障害)の発生件数の集計と整理をおこなった。その成果の一部は,申請者が管理するウェブサイト「学校リスク研究所」や雑誌論文において,積極的に公開してきた。また,建築学関係のシンポジウムでは,社会学の視点からみた転落事故の意味と対策の方向性を訴えた。建築学の知見にも学びつつ,今後も転落事故の効率的な防止策を追究していきたいと考える。
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