研究課題
【目的】高齢者の転倒の約60%はつまずきや滑りなど、足元の不注意によって発生するとされている。われわれは、高齢者の転倒リスク判断のための課題の一つとして、足元の注意課題が要求されるmulti-target stepping test(MTST)を考案し、その有用性について報告してきた。このMTSTは、10mの歩行区間にターゲットを15個配置することや、ターゲットの近接位置にはターゲット以外のディストラクターを合せて配置することで、ターゲットの踏み外しや、ディストラクターへの誤侵入という単純な指標によって転倒リスクを判定するものである。本研究では、転倒高齢者で踏み外しが発生する理由を視線行動の変化にあるのではないかという仮設を立て、MTST遂行中の視線行動を計測し、転倒高齢者と非転倒高齢者で比較した。【方法】対象は過去1年間で転倒経験のある高齢者20例(79±3歳)、転倒経験の無い高齢者20例(76±8歳)、そして健常若年者20例(21±1歳)であった。測定は2回行い、MTST遂行中における遂行時間、ターゲットの踏み外しの有無、ディストラクターへの誤侵入の有無、それに視線行動(アイマークレコーダー)を計測した。MTST遂行中の視線行動は、踵部に装着した加速度センサによる歩行データと合わせることで、どの時期にどこに視線が向けられているのかを算出した。【結果】転倒群では、ターゲットの踏み外し、ディストラクターへの誤侵入ともに、他の2群と比べて有意に多く、また遂行時間も遅かった。また転倒群では、ターゲットから視線を離してからそのターゲットを踏むまでの時間間隔、および次のターゲットに視線が向けられてからそのターゲットを踏むまでの時間間隔ともに、他の2群と比べて有意に短かった。【結語】本研究によって、転倒群における足元の注意が要求された際の着地の正確性の低下には、視線行動が関係していることが示唆された。
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