1.自律神経系の機能低下は、循環器および代謝疾患の発症・進展と密接に関連している。自律神経機能の低下には、様々な「遺伝要因」と「環境要因(生活習慣)」が相互作用を有しながら複雑に関与しているため、これら要因の解明には、多面的な解析が必要である。本研究では、生活習慣病に対する将来のテーラーメイド栄養・医療を見据えて、自律神経機能低下に関連する遺伝要因の多面的解析を実施した。 2.若年健常者(大学生)約130名を本研究の対象者とした(本学の倫理委員会の承認の下、文書と口頭による十分な説明の後、自由意志に基づく文書による同意を得ている)。身長や体重など基礎的な身体測定の後、自律神経機能(心拍変動解析)、胃運動機能(胃電図)、末梢血管機能(手掌の冷水負荷試験)を測定した。さらに食習慣や生活習慣を食物摂取頻度調査票および生活習慣調査票により調査した。 3.グレリンLeu72Met多型およびグレリン受容体(GHSR)遺伝子多型(T171C、G477A)について、関連解析を実施した。BMIや血圧に遺伝子多型による差異は認められなかったが、グレリン多型のMet保有群において、エネルギー摂取量および食後の胃運動機能(胃電気周波数および正常周波数帯のパワー)が非保有群に比して有意に高値を示した。さらに、グレリンLeu72Met多型での有意な関連性は、標準体重(BMI=22)未満の群で顕著であった。また、GHSR多型との交互作用を有し、T-Gハプロタイプ保有者でのみグレリン多型のMet保有の影響は有意であった。以上の結果から、グレリンおよびGHSR遺伝子多型は摂食量や胃運動機能への影響を介して肥満、糖尿病など関連疾患の潜在的リスクとなっている可能性が示唆された。本多型の情報は、関連疾患の予防や治療において有用であると考えられる。
|