研究概要 |
心理社会的ストレスに関わる生物学的機序を,アロスタティック適応機能から解明する目的で,心的急性ストレス負荷テスト(挑戦的暗算課題)時の反応性,及び,その終了時点からの回復性に関する血圧を中心とした血行動態と,心理社会的および行動特性の個人差との関連を調査した.この種の研究は,正確な無侵襲測定装置と評価法が確立されてこそ意味を持つ.本研究では,私を含む研究室メンバーが開発に携わった無侵襲連続血圧計(MUB101)により,従来問題とされてきた時間経過に従うドリフトを回避し血圧値を1拍毎に測定した.また,平均回復率を指標として用いることで,反応性とは独立にストレス回復過程を評価した.平成21年度は,90名の男性参加者に対してストレス負荷テストを実施し,血圧(収縮期及び拡張期血圧)の反応性と平均回復率を算出した.さらに,心疾患の媒介要因として提案される心理社会的人格特性や生活習慣に関する行動特性等の質問紙調査を実施した.各指標間の有意な相関係数は以下の通り;1)収縮期血圧の反応性と外的怒り表出,不安,及び,大学生版食行動尺度外発性(-.27,-.24,及び.24),2)拡張期血圧の反応性と外的怒り表出(-.28),3)平均回復率と内的怒り表出(-.23).結果から,血圧に関するストレス回復機序が,ストレス反応機序とは独立していることが示唆された.また,予備的結果ではあるが,ストレス回復機序は,反応機序とは異なり,ネガティブな感情特性による関与というよりはむしろ,器質的特性,すなわち,安静時血圧やウエスト-ヒップ比等を含む積算値として算出されるアロスタティック負荷得点と有意な相関があった(-.24).平成22年度以降は,ストレスの器質的側面からのアプローチも含め,より包括的にストレスに関わるアロスタティック適応機能を探る予定である.
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