研究概要 |
本研究は、心理社会的ストレスに関わる生物学的機序,特にアロスタシス適応機能のひとつとして提案される心的ストレス回復性に関わる血圧調整機能を実験的に評価し,これに関わる性格特性,そして身体健康を横断的に調査すべく計画された. この実験研究では,非侵襲的に連続して1拍毎血圧を測定できる装置(MUB101)を用いた.この装置は、従来の問題点であった時間経過に従うドリフトを生じさせない構造になっており、血圧のストレス回復性を正確に評価することができる利点をもつ.本研究ではまた,反応性に依存しない独立した回復指標(平均回復率)を理論化し,当該研究結果から実証した(Sawada & Kato, 2009,2011).補助を受けた3年間で,計145名の男性参加者を対象に,ネガティブ性格特性として怒り,攻撃性,不安,うつ特性を,ポジティブ性格特性として楽観性と幸福感を,さらに喫煙の有無,大学生版食行動尺度と週当たりの運動時間を質問紙により査定した.また,身体健康測度としてBMI,仰臥位血圧,空腹時血糖およびコレステロールを測定した.横断研究として,既往歴ないし健康測度に逸脱のない計136名(平均年齢22.0歳)の若年者を対象に,安静時(10分間),暗算によるストレス負荷(5分間),そして回復時(5分間)の収縮期および拡張期血圧を連続測定し,平均回復率を算出した.階層的重回帰分析と調整媒介分析の結果,拡張期血圧における心的ストレス回復機能の低下は,高うつ得点者における楽観性の低下と関連しており(ΔR^2=.05,p<.01),また,LDLコレステロール高値の媒介変数となる可能性を見出した(うっ得点の平均値+1標準偏差時の間接効果=-.27,95%信頼区間=-.024:-.735).これらの結果から,ポジティブ性格特性が,ストレス回復性の血圧調整機能低下を生物学的媒介機序として,身体健康に影響を及ぼす可能性が示唆された.
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