本研究では生体のストレス応答を末梢の糖・脂質エネルギー代謝とミトコンドリア機能に焦点を当てて解析し、ストレスにより誘起される病態の分子メカニズムを解明することを目的としている。マウスに拘束ストレスを負荷すると、肝ミトコンドリアの呼吸活性が低下しATPレベルが著明に低下することが明らかとなった。これらストレス負荷マウスでは糖・脂質のエネルギー動員が著明に変動しており、肝臓の脂肪蓄積とグリコーゲンの低下が認められた。これらのことより、ストレスによるミトコンドリアの機能変化が抹消の糖・脂質代謝を変化させ脂肪肝を誘発する可能性が示唆された。また、これらストレス負荷によるミトコンドリア機能変化やATPレベルの低下はコルチコステロン分泌欠損マウスでは起こらないことより、ストレス負荷によるミトコンドリア代謝や糖・脂質代謝の変動にはグルココルチコイドが関与している可能性が示唆された。一方で、これら拘束ストレス負荷マウスにおいては夜間の自発行動量(ストレス・疲労度の指標)が著明に低下しており、現在ミトコンドリアの機能変化と自発行動量低下の関連性について検討している。また、ストレス負荷マウスにショ糖を摂取させるとストレスによる自発行動量の低下が早期に回復されるが、生体内で代謝されない(ミトコンドリアで利用されない)甘味料であるサッカリンを摂取させた場合はこのような疲労回復効果は見られなかった。現在、これら生体内での代謝が異なる甘味料の摂取とストレス負荷時の肝ミトコンドリア代謝への影響を検討中である。 以上の所見より、ストレス負荷により上昇するグルココルチコイドが末梢のミトコンドリア機能や糖・脂質代謝を著明に変化させることが明らかとなった。ストレス負荷におけるミトコンドリアの役割を明らかにすることにより、ストレスにより引き起こされる様々な疾患の病態解明および治療戦略への確立が期待できる。
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