研究概要 |
近年,口腔疾患が全身性疾患の原因となることや症状を修飾することが示されている.特に歯周病は高齢者に多いと報告されていることから,歯周病予防は,高齢者の全身性疾患の予防や健康維持・増進に関わる重要な課題である.運動は免疫系に強度依存的な影響を与えることが知られており,高強度運動は免疫機能を低下させる一方,中等度の運動は免疫機能を高めることが知られている.近年,加齢に伴う免疫機能の低下を中等度運動によって改善しようとする試みがなされているが,これまでディフェンシンと運動の関係を検討した研究は,αディフェンシンの研究が1つあるだけであり,βディフェンシンについては無い.本研究では,高齢者の運動に対するディフェンシンの応答を検討するため,運動がディフェンシンに及ぼす影響について明らかにすることを目的とした.運動習慣の無い若年男性に3日間連続して高強度運動(75%VO2max強度で1時間の自転車運動)を行ってもらい,1日目,2日目,3日目の運動実施前および4日目に唾液を採取した.得られた唾液よりβ2ディフェンシン(hBD2)濃度を測定した.その結果,唾液分泌量について有意な変動は認められなかった.また,hBD2濃度もまた有意な変動は示さなかった.唾液分泌量とhBD2濃度より算出したhBD2分泌速度は統計的に有意ではないが.1日目に比べて3日目および4日目において高まる傾向を示した.以上の結果より,唾液中hBD2は運動に対して応答し,連続した高強度運動によって安静時のhBD2濃度が高まることが示唆された.ディフェンシンは炎症性サイトカインにより、その分泌が誘導されることから運動由来の炎症状態に関与する可能性が考えられる.
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