研究概要 |
近年,口腔疾患が全身性疾患の原因となることや症状を修飾することが示されている.特に歯周病は高齢者に多いとされていることから,歯周病予防は,高齢者の全身性疾患の予防や健康維持・増進に関わる重要な課題である.近年,加齢に伴う免疫機能の低下を中等度運動によって改善しようとする試みがなされているが,これまでディフェンシンと運動の関係を検討した研究はほとんど無い.本研究では,高齢者の日常の身体活動が唾液中のディフェンシンに及ぼす影響について検討することを目的とした.運動習慣の無い74名の高齢者(71.5±0.5歳)を対象とし,唾液を採取してβ2ディフェンシン2(hBD2)濃度を測定した。また,簡易活動量測定器を2週間継続して装着し,1日当たりの歩数および活動量を測定した.得られた歩数を階層化し,四分位数をもって対象を4群(Q1~Q4)に分けた.1日あたりの平均歩数は,それぞれ3,626±941(Q1),5,770±491(Q2),7,960±656(Q3),および1,178±3,063 step/day(Q4)であり,quartileが高まる群になるほど有意に高値を示した(p<0.05).唾液分泌量は,それぞれ1.12±0.11(Q1),1.30±0.13(Q2),1.40±0.11(Q3)および1.48±0.10ml/min(Q4)であった.また1分間あたりのhBD2分泌量は,452.0±82.1(Q1),513.5±82.9(Q2),550.7±93,4(Q3)および624.8±75.9ng/min(Q4)であった.唾液分泌およびhBD2分泌は,有意な差は認められなかったがquartileが高まる群ほど高値を示す傾向が認められた.日常における身体活動量を高めることで唾液中ディフェンシン分泌が高まり,口腔疾患予防に有用である可能性が考えられる。
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