平成21年度おいて、本研究では、中心動脈の粘性が加齢によって増加し、その増加は心肺体力の高い者において抑制されることを報告した。これらの成果を確認するために、平成22年度は有酸素性トレーニングを用いた介入実験を実施した。被験者は、男性24名(平均年齢:約25歳)をトレーニング群16名、コントロール群8名にわけた。トレーニング群は、最大酸素摂取量の50%の強度の運動を1回30分間、週3回の頻度で10週間実施した。コントロール群は、普段通りの生活を送った。トノメトリー法と超音波法を用いて、総頸動脈の血圧波形と血管径波形を導き出した。2つの波形によるヒステリシスループから、動的コンプライアンス、静的コンプライアンス(弾性)および動脈粘性を算出した。本報告書では、両群5名ずつの解析が終了したので、合わせて10名分の結果を示す。トレーニング群の頸動脈のパラメーターは以下のように推移した(動的コンプライアンス:0.136→0.149mm2/mmHg、静的コンプライアンス:0.0136→0.014mm/mmHg、動脈粘性:1612→1346mmHg・s/mm)。コントロール群の頸動脈のパラメーターは以下のように推移した(動的コンプライアンス:0.141→0.199mm2/mmHg、静的コンプライアンス:0.0142→0.019mm/mmHg、動脈粘性:1784→1009mmHg・s/mm)。2元配置の分散分析の結果、有意な差は認められなかった。この結果は、20歳代男性における10週間の中強度の有酸素性トレーニングでは、動脈粘性だけでなく、動脈コンプライアンスの改善が起こらないことを示唆している。しかしながら、今回の結果は各群5名分であり、今後追加解析によって新たな結果が得られるかもしれない。
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