血糖値が上昇すると、グルコースは膵β細胞内に取り込まれ代謝されることによってATP/ADP濃度比は増加し、これが引き金となりインスリンが分泌される。一方、膵β細胞は抗酸化系酵素の発現がきわめて弱いことから、酸化ストレスの影響を強く受けやすい。酸化ストレスにより膵β細胞の機能が低下すると、糖尿病の重篤化を招く恐れがある。コエンザイムQ_<10>(CoQ_<10>)はATP産生賦活作用と抗酸化作用という二つの生理作用を有する唯一の生体内物質である。それぞれ、膵β細胞の機能発現と機能維待に重要な役割を果たすと推定される。そこで、この仮説を証明するため、CoQ_<10>のインスリン分泌システムにおける役割を明らかにする。 ラット由来膵β細胞株RINm5F細胞に高濃度の亜セレン酸ナトリウムを添加して酸化ストレスを誘導すると、24時間後には大部分の細胞が死滅した。しかしながら、CoQ_<10>で前処置するとこの細胞障害は著明に抑制された。また、そのメカニズムとして、CoQ_<10>は亜セレン酸ナトリウムによる活性酸素種(ROS)の産生やミトコンドリア膜電位の消失を抑制することで、その後に続くアポトーシス経路の活性化を防ぐ可能性が示唆された。一方、CoQ_<10>の合成経路を促進あるいは抑制することによって、膵β細胞内のCoQ_<10>含量を増減させると、インスリン分泌に関わる遺伝子群の発現が変動することが明らかとなった。したがって、CoQ_<10>は膵β細胞の保護ならびにインスリン分泌システムに重要な役割を果たすと考えられる。
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