幼稚園における子どもたち同士の遊びを観察すると、そこには「模倣」という行為が大きく関わっている。子ども同士でともに遊ぶようになるプロセスを「模倣」という現象を手がかりに考察してみたとき、仲間との関係、仲間の理解の深まりを考察することができる。しかし、このように子ども同士で遊びの中で互いの行為を模倣することは、遊びをともにするようになる肯定的な側面のみが含まれているのだろうか。本年度の研究においては、子ども同士の模倣が見られる場面を微視的に分析することにより、幼児にとって他者の行為を真似る行為の意味の多様性となぜ子どもが他者の動きを模倣するのかの2点を探ることによって仲間関係の発達をとらえなおすことを目的とした。 分析の結果、誰かが模倣するという行為はそこにいる他者と「ともに遊ぶこと」が生じるきっかけであると同時に、真似ない他者とは「ともに遊ばない」ことを示すことが生じていた。つまり、模倣という行為には他者とともに遊ぶ側面と仲間と遊ばない側面の両義性を見てとることができる。 また、他者の行為を模倣することの機能を考察する中で、新たなことを学ぶ側面とコミュニケーションを促進する側面をみることができることを確認した。従来の幼児の遊び場面の研究でとらえられていた子ども同士の模倣は後者のコミュニケーション機能を中心に、関係の輪を広げ遊び仲間を見出す社会的な側面に焦点をあてたものだと言える。一方で模倣における学びの側面を考えたときに、自分自身が「なってみたい」相手を模倣するという側面を考えることができる。Chaiklin(2003)は、子どもは自ら「模倣したくなる」と同時に「模倣できる」対象を求めていることがVygotskyの主観的ZPDを構成していることを論じている。今後、この主観的ZPDの観点から、仲間を模倣することの発達的な意味、さらには幼児理解の方法を検討していきたい。
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