染織関連の文献資料は、地誌、浮世草子、小袖模様雛形本、随筆、口伝書、辞典、女子往来物などに分けられる。『日本染織文献総覧』(後藤捷一、昭和55年)は、これら資料の目録であり、現在、同書所収の資料は凌霄文庫として四国大学付属図書館に保管されている。しかし、図書館に収められる以前に、これらの資料は散逸しており、すべての資料にあたることができない。昨年度までは、これら資料の公刊、活字の状況、所蔵先の情報の整理を重点的に行ってきた。研究最終年である本年度は、公刊されている資料内容の把握も行った。本年度調査した資料のうち、名所図会の類や、諸国名産品を記している書物などはそれぞれの地域における染織関連商品の状態(糸・生地など)が記され、当時の分業の様子を窺うことができる好資料である。そこで、江戸時代17世紀後半における特産物の記述から染織関連の項目を抜き出し、整理検討を行った。その成果を「染織技法の分業化に関する研究序説」『無形文化遺産報告第8号』としてまとめ、公開した。 本研究を通じて、今日まで染織技法を考察するのに用いられてきた各種文献について網羅的に把握することを試みたが、本研究期間で全ての作業を行うことは困難であった。それは、各々の技術の担い手や成果物(染織品)がいかなる消費をされるかに影響を受けているためである。職人、農業従事者、主婦の技術を一括りの技術と捉えることとできるかという点や、成果物が租税物であるか、商品、あるいは自家消費であるかによって求められる技術は異なり、それらを同じ土俵で整理することは困難といえる。しかし、染織技法を解明する重要な視点に「分業」という生産体制があり、それが技術を解明する鍵であることは確かである。今後も、対象とした資料内容一つ一つの状況を細かに精査し、他資料と関連させるには継続的な調査を行いながら、残された課題を検討していきたい。
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