研究概要 |
本年度は,トリメチルスズ投与により海馬領域を傷害して記憶障害を誘導したラットを用いて,ルチンの保護的役割の作用機序を細胞および分子レベルで検討した.海馬は記憶の形成に重要な役割を担う領域であるため,この領域に着目して研究を行った.脳の凍結切片を作成し,海馬領域別に神経細胞数と神経細胞死を検討したところ,海馬の傷害により神経細胞数の減少および神経細胞死の増加が,トリメチルスズ投与から20日後にみとめられ,それらはルチン摂食により抑制あるいは抑制傾向が観察された.また,取りだした海馬を用いて,脳損傷時や神経変性疾患によって活性化するミクログリアとアストロサイトのmRNA発現量を検討したところ,トリメチルスズ投与によって増加した活性化ミクログリアの発現量がルチン摂食により抑制された.アストロサイトに関してはルチン摂食による発現量への影響はみとめられなかった.また,活性化ミクログリアが産生する炎症性サイトカインのmRNA発現量はトリメチルスズ投与で増加したが,ルチン摂食により抑制された.これらのことから,ルチンは抗炎症作用により海馬の神経細胞傷害を保護することで記憶障害を抑制していることが示唆された. 高齢社会に伴い,認知症による生活の質の低下が懸念されており,より安全で安価な方法による記憶能低下保護作用を得ることが期待されている.本研究では,日常的に摂取可能なルチンの記憶障害に対する保護効果の作用機序の一端を解明しており,サプリメントあるいは創薬へ応用する際に非常に重要な結果となりうる.
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