胎生期における母胎からの脂質栄養供給の重要性について検討するために、母胎の妊娠前よりn-3系多価不飽和脂肪酸欠乏食を与えた。妊娠期間も継続して欠乏食を摂取させ、出産直前の母胎にBrdUを腹腔内投与することにより、胎児の新生神経細胞を標識し、その移動パターン及び成熟過程について各種マーカーを用いて検討を行った。その結果、胎生期において誕生した細胞の移動速度が、正常食群と欠乏食群の間では異なることがわかった。これに関連して、生後21日目の大脳皮質構成細胞の分布パターンの観察においても、リーリン陽性細胞やカルレチニン陽性細胞の分布パターンが二群間で異なることがわかった。詳細な検討はこれからであるが、グリア細胞の発生機序にも若干の変化を認めた。これらのことは、脂質栄養が、神経細胞またはグリア細胞の発生発達機序において、重要なシグナルとしての機能を有していることを示唆している。また、DiIを用いた、生後0日目個体の脳梁交連繊維の構造解析においては、2/3層ニューロンから伸びる脳表面のブランチングが、両群では異なる象を観察した。このような所見は、脂質栄養が軸索の伸長さらには神経回路網形成においても重要な因子として働いていることを示唆するものである。
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