現在、認知症患者の約70%はアルツハイマー病であり、アミロイドβタンパク質複合体の脳内蓄積(老人斑)がその発症に深く関与している.これまでの研究から、血漿中に存在するアルブミンがアミロイドβタンパク質の蓄積を阻害する可能性が示唆された。アルブミンは肝臓で合成されたのち、血漿に分泌されるタンパク質であるが、脈絡叢の毛細血管を介して脳脊髄液にも移行していると考えられている。肝臓アルブミン合成は栄養状態の変化に強く影響されることが知られており、さらに近年では、その濃度(量)ばかりでなく、アルブミン分子の質的変化も様々な生理機能に影響を及ぼす可能性が示唆されている。本研究では、イオン交換カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー法により、ラット血漿中に存在するアルブミン分子の酸化還元動態について検討した。ヒトアルブミン分子に関して報告されている結果と同様、健常ラットの血漿アルブミンは還元型の大きなピークと酸化型の2つのピークに分離することが可能であったが、2つの酸化型のピークの比率がヒトとは異なっていたことから、今後、その詳細な分子構造を解明することが必要と思われた。しかしながら肝臓におけるアルブミン合成が低下している慢性肝障害モデルラットのアルブミンについて検討したところ、血漿アルブミン濃度が低下するとともに、還元型アルブミン比率が顕著に低下し、酸化型アルブミン比率が上昇していた。近年、脳卒中患者の脳脊髄液中に酸化型アルブミンが検出され、神経細胞への酸化ストレスを誘発している可能性も示唆されている。アルブミン合成に影響を及ぼす栄養状態の低下は、低アルブミン血症とともに酸化型アルブミンの上昇をまねき、脳内環境にまで影響を及ぼす可能性が考えられた。
|