申請者は、これまでにヒト小腸様細胞株のβカロテン開裂酵素(BCMO1:βカロテン(BC)からレチナール(RAL)転換する酵素)の発現調節の機序について報告した(2009年 日本栄養食糧学会)。またBCMO1は、脂肪組織中の脂質代謝の調節に関連することが報告されている。さらにビタミンAであるRALやレチノイン酸(RA)の肥満抑制効果の可能性についても報告されている。そこで本研究では、脂肪組織および脂肪細胞において、BCMO1発現調節機序について検討し、さらにBC由来のRALおよびRAによる肥満抑制効果についても検討した。 マウスの脂肪細胞である3T3L-1細胞の分化・成熟過程において、BCMO1とRAを合成する酵素RALDH1の遺伝子発現変動パターンがよく似ていた。このことから、脂肪細胞においてBC由来のRA合成が重要であることが示唆された。また、BCを含む培地で3T3L-1細胞を培養したところ、その細胞の成熟化が抑制された。 肥満発症のモデル動物としてOLETFラットを用い、肥満状態における脂肪組織中のビタミンA代謝変動とBC摂取による肥満抑制効果を検討した。OLETFラットでは、細胞性レチノール結合タンパク質(CRBP)やレチノール結合タンパク質(RBP)の遺伝子発現量が増大し、逆にRALDH1遺伝子発現量は減少した。それに伴い、脂肪組織中のRA含量も減少した。しかし、BCを摂取させるとBCMO1遺伝子発現量は増大するものの、RALDH1発現量やRA含量は変動しなかった。さらにBC摂取させても、体重減少や血糖値や血清トリグリセリド濃度の低下が観察されず、本研究においては肥満抑制効果が見られなかった。
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