本研究では、熱中症の予防に有効な飲料を創成する目的で、牛乳中に体水分保持作用を有する因子が存在することを見出し、その作用は乳清中のある種のタンパク質が担っていることを示した。実験動物を用いて飲料の体水分保持作用を解明するために、正確に排尿量を測定するための採尿ケージと実験条件を確立した。牛乳摂取後の尿量は水やスポーツドリンクよりも有意に少ないことを確認した。胃排出速度のマーカーである安定同位体標識酢酸〔2-13C〕と質量分析装置を内蔵した呼気ガス分析装置を用いて、牛乳の体水分保持作用は、牛乳摂取後の胃内滞在時間によっては説明出来ないことを示した。牛乳を投与したラットから、経時的に採血を行い、飲料の投与によって、血漿水分量が増加していることを確認した。さらに、牛乳摂取後には、血漿Na+濃度が低下する一方、血漿浸透圧の低下は軽減されていたことから、牛乳の体水分保持作用の作用機序の一端には、血漿浸透圧の低下軽減があり、Na+以外の要因が関与している可能性を見出した。これらの結果をふまえて、牛乳成分の分画を行い、牛乳の体水分保持作用には、電解質とは異なる未解明の因子、具体的には、乳清に微量に含まれるタンパク質が関係していることを示した。このタンパク質について実験を行なったところ、このタンパク質そのものは透析膜を通過しないが、レンニンによって切断されてペプチドになると透析膜を通過することを明らかにした。そのペプチドの等電点は約pH2.5であり、ペプチド化されても体水分保持作用は消失しないことを示した。
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