アントラサイクリン系抗癌薬は、広い抗癌スペクトルを持つ有用な抗癌薬であるが、一方、生涯累積投与量依存的に重篤な心筋障害・心不全を引き起こす。この心不全の原因の一つとして、アントラサイクリン系抗癌薬のアルコール体代謝産物の心臓組織への蓄積が有望視されている。この代謝に関与する酵素として、CBR1(Carbonyl reductase 1)が知られている。最近になって、ヒトAKR1A1(Aldo-keto reductase 1A1)も同様に生理的な代謝酵素として働きうることが明らかにされた。本年度は、AKR1A1およびラットのオルソログであるAKR1A3の酵素蛋白質精製系・酵素活性測定系の確立、これらの酵素を安定に発現させた細胞株の樹立を目指した。AKR酵素群は、タグの付加により酵素活性が低下することが知られるため、タグのon-column cleavageが可能なeXactタグの融合蛋白質として大腸菌内に発現させ、その後on-column cleavageによってtag freeな酵素をワンステップで精製した。本方法で得られた酵素蛋白質はSDS-PAGE上で均一かつ十分量であり、その後の酵素活性測定に使用可能であった。また、FLAGタグを付加した上記の酵素のpolyclonalな安定発現細胞群を樹立した。次年度以降はこれらを用い、上記酵素の阻害活性を持つ物質を探索する予定である。
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