過去の研究において鉄欠乏食投与ラットとII型糖尿病モデルラット(GKラット)を比較した結果、鉄欠乏ラットの血清グルコース濃度が、GKラットと同程度まで上昇することを確認した。本研究では鉄欠乏食投与による血糖値上昇の機構についてインスリン抵抗性の惹起に関連するアディポカイン群の変動を中心に、一般的な微量元素の欠乏が生活習慣病の危険因子となる可能性について、基礎栄養学的手法を用いて検討した。 本年度の研究により、鉄欠乏食投与ラットの血清中のグルコース濃度およびインスリン濃度の上昇が観察され、鉄欠乏がインスリン非依存性の要因となることが確認された。また、アディポカイン群ではインスリン感受性を改善する血清中アディポネクチン濃度の低下が観察された。鉄欠乏では成長遅延とともに脂質代謝が亢進することが知られており、鉄欠乏ラットにおける内臓脂肪の増加がアディポネクチン分泌の低下を招き、インスリン抵抗性を惹起したものと推察された。また、微量栄養素間の生体内相互作用の一例として鉄欠乏によるビタミンA利用の低下が知られているが、血清中のビタミンA輸送坦体であり、インスリン抵抗性因子とされる血清中RBP濃度については鉄欠乏による変動は見られなかった。これより、鉄欠乏ラットにおけるインスリン抵抗性の上昇は鉄代謝独自の機構によるものと推察された。 今後は、鉄欠乏による脂質代謝亢進の改善とアディポネクチン濃度の関連性について更に検討を行う予定である。
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