研究課題
視聴覚情報の記憶では、意味処理(モデルでは「深い」認知処理水準と呼称される)が記憶を促進する、とする処理水準モデルの有効性が示されてきた。しかし、食品の味(ここでは、味と香りの統合されたフレーバーを指す)の記憶については、当該モデルはほとんど検討されていない。そこで、本研究では、味やフレーバーの記憶を促進する要因を、処理水準モデルに基づき、心理・脳科学的に検討することを目的とする。本年度(2年目)は、1年目に検討した、処理水準の操作のための実験条件を用い、カップに添付された画像が、ジュースの味の記憶に与える影響を検討した。92名の学生を対象に、果物写真のラベルを用いて検討したところ、画像の果物の種類が、味の記憶に影響を与えることが明らかになった。さらに追加のアンケート調査の結果、飲用経験の多いなじみ深い食品をラベルに用いた場合に、ラベルの効果が生じることが明らかになった。これは味の記憶に、「りんご味」といった意味処理が関与する可能性を示唆しており、味の記憶における処理水準モデルの有効性を示唆している(Mizutani et al.,2012)。次に、この知見を脳機能の点から検討する目的で、味を記憶している際の脳活動と記憶成績の関係を検討した。一般成人15名が飲料を味わって記憶する際の脳活動データを解析したところ、味の再認記憶成績の高い人ほど、「意味処理」を司るとされる左下前頭回前部の活動が高いことが明らかとなった。さらに、当該飲料に対して飲用経験の高い13名について検討し、経験の高い人は一般人より、再認成績が高く、左下前頭回前部の活動も高いことが明らかになった。これらの結果は、意味処理が記憶効率を高めるという処理水準モデルと一致しており、大脳活動の点からも、処理水準モデルの有効性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、主に視聴覚刺激を用いて検討されてきた偶発記憶の主要なモデルである、処理水準モデルが、味やフレーバー刺激の記憶にも当てはまるかを、心理実験および脳機能計測実験により明らかにすることを研究目的とする。検討の結果、味に意味処理(処理水準モデルでは「深い」認知処理水準と呼称される)を促すコンテクストが、味の記憶に影響を及ぼすこと、また、味の再認記憶成績と、大脳左下前頭回の「意味処理」を司る領域の活動に相関が認められることを明らかにした。これらの結果は、処理水準モデルと適合しており、当該モデルが味の記憶にも適用できる可能性を示唆しており、当初のリサーチクエスチョンに対する答えが得られている。
現在までに得た結果のうち、脳機能計測を用いた研究の成果については、まだ学術論文としての発表を果たしていない。そこで、最終年度は、論文作成を最優先とし、そのための補足データの収集や解析などを行う。上述の結果について、論文審査(ピアレビュー)による検証を経て、学術的に適切な解釈として発表することを目指す。
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Food Quality and Preference
巻: 24(1) ページ: 92-98
臨床栄養
巻: 4月号 ページ: 338