研究概要 |
視聴覚情報の記憶では、意味処理(モデルでは「深い」認知処理水準と呼称される)が記憶を促進する、とする処理水準モデルの有効性が示されてきた。しかし、食品の味(ここでは、味と香りの統合されたフレーバーを指す)の記憶については、当該モデルはほとんど検討されていない。そこで、本研究では、味やフレーバーの記憶を促進する要因を、処理水準モデルに基づき、心理・脳科学的に検討することを目的とした。 前半期の研究では、心理学的実験を実施し、画像ラベルの内容が飲料の評価(Mizutani et al., 2010)と記憶(Mizutani et al., 2012)に影響を与えること、特に、飲用経験の多いなじみ深い食品をラベルに用いた場合に、ラベルの効果が生じることが明らかにし、食品フレーバーの記憶に「りんご味」といった意味処理が関与する可能性を示唆する結果を得た(Mizutani et al., 2012)。これを受けて後半期の研究では、食品フレーバーの記憶における神経基盤の検討を行い(Okamoto et al., 2011)、味の再認記憶成績の高い人ほど、「意味処理」を司るとされる左下前頭回前部の活動が高いことを明らかにした(論文作成中)。これらの結果は、意味処理が記憶効率を高めるという処理水準モデルと一致しており、心理実験、脳機能イメージングの双方から、食品フレーバーの記憶においても処理水準モデルが有効である可能性を示唆している。最終年度はこれらの成果の取りまとめを行い、味覚偶発記憶に関与するラベルやパッケージなどの情報が、食品の味やフレーバーの処理に与える影響とその神経基盤をレビューした(Okamoto and Dan, 2013)。
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