研究概要 |
ヤシャゲンゴロウは,ゲンゴロウ科の「種の保存法」対象の水生コウチュウ類の1種である.当然,絶滅の危機にある.その最大の要因は,元々の自然分布域が福井県南越前町の夜叉が池のみに限定されることにある. その夜叉が池で,ヤシャゲンゴロウの幼虫の餌であるケンミジンコが近年著しく減少しているが,その原因も特定できていない.そこで,プランクトンネットを利用したケンミジンコ類の相対的個体数のモニタリング調査を10月に行った.その結果,5~6年前と比べ1リットルあたりのケンミジンコ類の個体数が,1/10程度に激減していることがわかった.また,コドラートを用いた成虫の個体数調査による,池全体のヤシャゲンゴロウの個体数の推定値は数百頭であり,絶滅のリスクが下がっていないことが判明した.夜叉が池が位置する国有林を管轄する農林水産省森林管理署が,常時水温を測定し,水質調査を定期的に行っている.それらからは,温暖化による影響や水質悪化などの影響は検出されておらず,ケンミジンコ類が減っている原因は,未だ不明である. これらの状況をふまえ,本年度は南越前町にある南条小学校と今庄小学校で,ヤシャゲンゴロウを材料とした出前講義を行った.うち南条小学校は,1~2年の低学年を対象にした授業を行った.児童たちの学習進行度は,昆虫の基本的な知識を,まだ授業で習っていない段階であったが,地方に位置する小学校児童と言うことで,都市部の児童と比べて,経験的に多くの昆虫の情報を持っていた.ヤシャゲンゴロウは決してメジャーな昆虫ではないが,温暖化や絶滅危惧と言う用語を避けつつ,平易な単語で説明すると,かなりの理解を得られたものと考えられた.たとえ,マイナーな生物であっても,地元の材料であれば,児童達はそれをきっかけとして,環境問題に強い関心を抱くことが解った.
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