研究概要 |
本年は,種の保存法対象種であるヤシャゲンゴロウの環境省助成による人工増殖が始まって,5年目である.しかし,昨年までには全く見られなかった卵期におけるカビの大量発生により,羽化した成虫数は,ほとんどなかったと言う事態に追い込まれた.写真を撮って菌類の専門家に同定を依頼したが,カビの培養を行わない限り,種の確定はできないことが判明した.カビの発生理由は,よくわからなかったが,成虫自体が保菌者と言う可能性もあるため,来年度の人工増殖時には,塩浴の実施を試み,カビ対策に全力を挙げることを決定した. 本年度は,記録的な猛暑・残暑の年となったが,自然条件下におけるヤシャゲンゴロウの個体数や,幼虫時の主要な餌であるミジンコ類の発生量については,昨年度に近い個体数を維持していたと思われる.また,ハイイロゲンゴロウやミズカマキリなどのかつては見られなかった平地性水生昆虫類の侵入が,近年確認されるようになっていたが,本年度は,特にその傾向が強くなったと言うことは見られなかった. 前述の通り,本年度は,羽化成虫が極端に少なくなったため,当所予定していた,地元小学生を,人工飼育場に招いた環境教育は断念し,翌年度以降に使用する教育用テキストの作成を行った.各地の図書館で,様々な環境教育資料を調査したが,最も簡潔でなおかつ子供達の理解を高めるのは,写真入り下敷きであるとの結論に達した.そこで,本年度は,ヤシャゲンゴロウの生態を紹介し,その保全を訴える下敷きを試作した.他の普及啓発用の下敷きを参考とし,ヤシャゲンゴロウに加えて,他の関連水生動物の写真を多く使用した下敷きが完成した.来年度は,これを配布した環境教育の試験的実施を行う予定である.
|