研究概要 |
1)確立した人工増殖技術の向上 世界で,福井県南越前町にしか生息しないヤシャゲンゴロウは,種の保存法対象種に指定されている絶滅危惧種である.その自然個体群は著しく減少しており,絶滅のリスクを回避するためにも,人工増殖技術の確立は急務である.平成22年度までに行われていた人工増殖で,最も大きな問題となっているのが,幼虫時の死亡率や蛹化の失敗率の高さであった.しかし,平成23年度は初夏に幼虫の餌であるミジンコ類の大量死があったものの,代替の餌を利用することで,幼虫の死亡数を低く抑えことに生息した.蛹化の成功率も高くすることができたが,その反面,羽化後の新成虫の越冬失敗率が高く,人工増殖技術は完成したとは言えない状況である. 2)科学&環境教育カリキュラムに組み込むための教材化の研究 ヤシャゲンゴロウは,地元ではシンボル的な存在であり,希少種であるとの認識は,多くの住民や小中学生の間であるが,旧北区のAcilius属(ヤシャゲンゴロウが含まれる属)の最も南限に生息すると言う生物地理学的な重要性や,行動の特異性などはほとんど知られていない.平成22年度と同様,本年度も,わかりやすいカラー写真をもとにした教材用の下敷きを作成した.そして,本年は,各地の図書館や環境教育分野を持つ国内他大学が所有する参考資料を収集し,国内研究機関が持つ生物標本を調査し,さらに,本年度の野外調査の結果を基として,教材の改良を行った.また,23年秋に名古屋市で開かれた生物多様性条約の国際会議で展示するヤシャゲンゴロウの紹介映像を,地元ケーブルテレビ局と共同で作成した.この映像資料などを中心とし,地元小学生を対象とした環境教育施設「ヤシャゲンゴロウ資料館」(仮)の準備に取り掛かった.この資料館は,24年度初夏以降に公開できる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は,初夏に,ヤシャゲシゴロウの幼虫の餌となるミジンコの大量死があり,得られた人工増殖個体数は多くなかった.しかし,環境教育用の施設開館にめどが立つなど,大きな進展が見られた.
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今後の研究の推進方策 |
環境教育の充実には,教育委員会を管轄する地元自治体の協力が不可欠である.地元自治体の理解はあるが,財政的な支援が得られているとは言い難い.それは,ヤシャゲンゴロウが国指定の種の保存法対象種と言うことで,国依存の傾向があるからである.本研究を完成させ,環境教育の材料として,本種が確実に活用できれば,この状況が打破できるものと考えられる.
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