種の保存法対象種であるヤシャゲンゴロウの自然個体群は著しく減少している.絶滅のリスクを回避するためにも,人工増殖技術の確立は急務である.これまでの飼育で大きな問題となっていたのが,幼虫時の死亡率や蛹化の失敗率の高さであった.蛹化の失敗については不明な点がいまだに多いが,幼虫の大量死亡の大きな原因は,餌不足である.平成 24 年度は,餌であるミジンコの大量養殖が順調であり,また河川性の淡水魚の稚魚の活用もできた.ヤシャゲンゴロウの幼虫の飼育に関してはだいたいめどがついた状況であるが,冬季越冬中に成虫が多く死ぬことがあり,飼育技術についてはまだ改善の余地を残す. 野外個体群の調査も行われた.平成 24 年度は従来のコドラート法のほか,水中カメラによる撮影法の採用も検討された.コドラーと法による個体数推定の精度はあまり高いとは言えないが,ヤシャゲンゴロウの自然個体群はおおよそ 1000 頭以下で構成されると推計される.もともと予定していた全頭捕獲については,関係省庁との協議が終了せず,残念ながら以降に持ち越しとなった.種の保存法対象種なので,調査に関する制限は厳しいものがある. ヤシャゲンゴロウの環境教育への活用としては,昨年度までの配布物等の教材のほか,同種の飼育施設をミニ資料館として整備することが進められている.同種の生態紹介パネルの作成や巨大模型などが展示されている.各地の図書館等で文献調査を行い,他地域における希少種を利用した環境教育の事例と比較を行った.一部の鳥を除き,種の保存法対象種が大量に飼育され,なおかつ生体展示されているところはヤシャゲンゴロウ以外にはほとんど事例がない.今回の試みは希少種保全と環境教育の両面から見て貴重な成果をあげることができた.
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