本年度は、フランスにおける科学的教養育成のための科学教育カリキュ-ラムとその実践に関する事例研究を踏まえ、日本の文脈に即して必要とされる科学的素養を育成するための具体的方策について、検討を行った。 フランスの科学教育に関する事例研究から、わが国の理科教育充実のために参考となる点を、次の通り指摘することができる。科学的教養は、知識、能力、態度の総体として捉えられており、その内実は、国内における議論及び世界の動向を加味して具体化されている。学校における科学教育では、小学校からリセに至るまで、科学的教養をキーワードとして一貫性のある教育プログラムが作成されている。評価規準を具体的に提示し段階的に認証することで、一人ひとりに科学的教養を確実に習得させる仕組みが構築されている。科学的教養の習得として、実社会や実生活のなかで直面する状況に応じて、知識、能力、態度を総合的に用いることのできるコンピテンスが求められている。そのため、探究の手続きにみられる学習者を主体とした実際的な活動を取り入れるとともに、現実の生活で遭遇するような具体的で多様な状況設定のもとでの学習活動が展開されている。また、新たな取り組みとして、科学とテクノロジーに関わる既存教科を統合した新しいカリキュラムが開発、実施されている。このような学習活動を促進するために、教材提供など教員に対する支援が行われている。 このことから、学校教育において科学的素養を育成するために、小学校から高等学校までを見通し方向性を一にした一貫性あるカリキュラムの作成、評価規準の具体化、教員に対する情報提供と支援が必要である。さらに、変化し続ける社会において必要とされるコンピテンスの育成に向けて、学際的な学びを実現するために、既存の教科の枠組みをこえた新たなカリキュ-ラムを検討する必要があると考えられる。
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