研究概要 |
動物の行動発達の3段階のうち、最終的な知性(あるいは合理的行動)の段階に達するのは、「行動の移行」を実験中に示したチンパンジーのような類人猿と人間のみである(Vygotrsky and Luria, 1930/1993)。さらにヴィゴツキーは、そのような類人猿から区別される人間の行動の特徴として、人工的な記号の助けを借りた自らの行動の支配があることも指摘している。また、トマセロ(1999/2006)によれば、(他の動物種と対比して)ヒトの文化的学習には、道具使用や記号行動の目的・目標の理解が必要であり、ヒトだけが他者を「通じて」学習する―つまり「他者の心の中に自分を置いてその動きをたどる」―ことが可能であるという。 このような心理的道具使用に伴う人間行動の特質を踏まえ、心理的道具については、その道具自身の構造がどのようなものなのか〔(1)構造〕、何のために用いられるものか〔(2)目的・目標〕を示す必要があり、目的・目標を明らかにすることにより、その心理的道具の機能の限界がどこにあるのかも明確になる。また、人工物が機能する環境〔(3)環境〕や心理的道具を通じた自己の行動の支配〔(4)他者認識・自己支配〕も考慮せねばならない。これらを踏まえた心理的道具のデザインがより良い数学学習のために必要となる。 本研究では、心理的道具に「階層性」という視点を導入し、算数科の授業で扱われる図・表・記号等の心理的道具の数学的意義・子どもの発達との関係性・それの持つ文化的-歴史的背景・学年を超えた使用の継続性といった観点から考察を行った。
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