本年度は、当初の計画に基づき主に次の2点について研究を行った。 1 脈拍解析システムの開発と検証 重度障害児における認知機能の評価に関しては、心拍反応の有効性が指摘されてきたが、授業場面への適用には大きな制約があった。本研究では、血中酸素飽和度の監視のために広く利用されているパルスオキシメータを用い、脈派の計測を通して心拍反応を推定するシステムを開発した。この方法は、精度の高い心拍反応を無拘束に測定できるので、授業の効果測定に対する意義を指摘できる。健常成人を対象に心電図と脈波の同時記録を行い、本方法の妥当性を検証した上で、肢体不自由特別支援学校に在籍する重度重複障害の事例を対象に、継続的な授業記録を行った。その結果、教師による名前の呼びかけと、その他の声かけとの間で、対象児の心拍反応に違いを認めた。特に、呼びかけに対しては、その後に続く働きかけを期待して心拍が減速する期待心拍反応の生起を観察した。 2 期待反応に基づく認知発達段階の評価・援助課題群の作成 重度障害児の認知発達に関して、期待反応に基づく知見が蓄積されてきたが、教育実践への援用にはなお課題があった。本研究では、期待反応の発達過程と先行研究で効果が確認された援助内容とに基づき、学習の習得状況の把握方法を組織化した。この目的は、障害の状態の個人差を考慮して、多様な学習過程を提案可能にすることである。従って個に応じた指導の充実における意義が指摘できる。具体的には、「見て理解する力」「聞いて理解する力」「コミュニケーションの力」の3種について各14の調査項目を作成した。肢体不自由特別支援学校の児童22名を対象として調査した結果、2名の教員による判断の一致度および相関が有意であり、調査項目の信頼性を確かめることができた。さらに、項目間での達成の順序性を明らかにしたことで、個人の習得経過を示すことが可能となった。
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