研究概要 |
本研究は,(1)コンテンツに関する質疑応答の共有による他の受講者の存在が感じられる学習サイトの構築,(2)質疑応答情報の公開状態を制御することによる学習効果の変化の評価,という2つの段階を通じ,「オンラインの学び場」を提案することが目的である.最終年度である本年度では,研究目的を達成するべく,昨年度までに収集した学習者の質疑応答データをもとに,3つの教材を構築した.さらに,学習者の学習態度に関するアンケートの整備を行った.3つの教材の第一は,過去の受講者の質問を従来までの教材と同時に閲覧できるよう改良した,演出つきの教材である.この教材は,過去の調査で現れた質問を幅広く含み,いわば,先行する学習者からの質問により補完がなされた教材である.第二は,過去の学習者の質問は含むものの,頻出し,かつ基本的な質問については取り除く演出を行った教材で,学習者が発問する余地を残したものとして構築した.第三は,第二の教材から,質問を行った学習者の情報(実施年度,ニックネーム)を取り除いたもので,一見すると過去の学習者の質問ではなく,Q&Aによる補足説明がある教材として認識されるよう演出を行った教材である.各教材について,アルバイトの受講者を募り,第一の教材については合計25名(内有効回答23名,22年度からの繰越予算にて実施),第二,第三の教材には各10名(内有効回答各10名)の参加を得た.教材自体や数式処理システムの操作の難易度に関する項目では,学習者群に差異は見られなかった.しかし,第三,特に第二の教材の学習者群については,他の学習者由来の質問の閲覧が理解の助けになったとする回答が増加すると同時に,発問に対する意欲の増加が見られた.3つの教材の比較からは,情報補完が進んだ教材ではなく,発問の余地を残し,かつ,他の学習者の質問であることを明示する教材の方が,学習の促進に効果が高い可能性が示された.
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