(1)代表的なインド医学書『チャラカサンヒター(以下CS)』『スシュルタサンヒター(以下SS)』において、アルコール飲用に関連して精神医学領域の対象となっている問題がどのように記述されているかを比較検討したところ、以下の点が判明した。 (1)両者ともにアルコール酩酊症状=マダ(mada)について、飲料の一種としての酒に関連した「平時とは異なる精神状態」という病に位置づけ、臨床症状や治療法について提示する章があり、現代でいう急性アルコール酩酊とほぼ一致する症状が段階的に把握.分類されていた。 (2)CSでは現在のアルコール離脱症状に類似する症状への言及、またSSでは酒の病的飲用を想定させる病名列挙があり、またダルマ文献では急性アルコール酩酊者の行動には寛容であるが、習慣的飲酒行動を持つ者の行動を冷遇する記載がみられる。現代のように「依存」という概念では記述されていないものの、病態そのものは急性酩酊症状としてのマダとは区別して把握されていた可能性がある。 (2)近年の認知行動療法において注目が集まっている「マインドフルネス認知療法(以下MBCT)」と仏教の接点についてその成立経緯を検討し、以下のような課題を得た。 (1)仏教瞑想のひとつ「ヴィパッサナー瞑想」はMBCTにおける「マインドフルネス瞑想」と類似するものであるが、定義や解釈の面で類似点・相違点があり、両者の関係を明確にする必要があること (2)MBCTの前身となるMBSRの段階でも仏教やインド思想から様々な影響を受けており、MBCTの成立過程を明らかにすることは、その中核となる「マインドフルネス」概念の意義や精神療法的側面との関連を明確にしていくために必要であること 以上の成果から、インド医学や仏教の領域には現代の精神医学と関連する問題が多く、今後も研究対象となる接点が数多く見出されていくものと予想される。
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