研究概要 |
コンセンサス会議を始めとする参加型テクノロジーアセスメント手法の汎用性を高めるため,(1)これらの手法を既存の社会的意思決定システムと関連づけて活用する際の諸問題の理論的解明,(2)手法活用を支援する実用的なツールの開発-を進めることが,本研究の目的である。初年度である本年度は,(1)に関しては,研究代表者がこれまでに企画運営に携わった参加型技術評価のイベント(ナノテクノロジーに関するコンセンサス会議等)を事例として,手法活用における問題点や,議論結果の活用可能性などの効果について検討し,4本の事例研究論文にまとめた。とくに,ナノテクの食品への応用のような,萌芽的段階にある技術への評価について,情報提供や手法設計,テーマ設定などのデザインを適切に行うことにより,研究開発の推進や規制のあり方を考える上で参考となる市民の多様な意見を明らかにしうることを示した。(2)に関しては,過去に日本でコンセンサス会議の手法を活用したことのあるユーザー(行政機関,コンサルタント企業)に対して,同手法を導入した際の経験についてインタビュー調査を行い,手法活用を促すツールの開発に向けたニーズ把握を進めた。ユーザーにとって,コンセンサス会議手法の導入は,熟議に基づく市民の意向の把握や,定式化された手法を用いることによる信頼性の向上といったメリットがあるが,他方で,会議の準備や実施にかかる人的,金銭的なコストが最大の課題であることが示唆された。以上のように,本年度の研究では,コンセンサス会議等の手法を,科学技術と一般社会との接点に生じる諸課題の把握や,両者の良好なコミュニケーションの促進に一層役立てるための予備的調査,考察を行うことができた。
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